はじめに
本書は2001年に発売された書籍ですが、今でも非常に有用な本であります。
前半完了から3ヶ月経過してしまいましたが、後半も終わりました*1。そこから得た学びをまとめます。
本書は、問題を解きながら読み進めることで、良い批判/質問ができることを目指すものです。
本書の概要
「解説書なんかいくら読んだって論理の力は鍛えられない」と言って論理の実践的な訓練を推奨する著者が、好評だった前著『論理トレーニング』を編み直して、練習問題を101題にまとめたのが本書である。今回は練習問題のすべてに解答がつけられ、取り組みやすいよう体裁も整えられている。論理を構成する各概念の解説もとっつきやすい表現に直されていて、前作にあった教科書風の素っ気ない印象が薄まっている。
全体は、「議論を読む」と「論証する」に大別されている。前者では接続表現や議論の骨格について、後者では論証構造や演繹・推測、論証の批判について取り上げている。
本書で身につく論理の力にはさまざまな効用がある。たとえば、論証の段で強調している「異論」(相手の主張と対立するような主張を立論すること)と「批判」(相手の立論の論証部に対して反論すること、対立ではない)の使い分け。ここで双方の言葉の概念を正確にとらえ、練習問題によって使い分けが可能になれば、討論のときなどにきわめて有用だ。本書はこうした論理の奥深い世界に読者を案内してくれる。
教科書として作られた本書に、個人で取り組む人が多いというのもうなずける。ひとり本書に向かって言葉と格闘し、煩悶(はんもん)し、その筋道をたどる作業が論理の力を鍛えてくれるはずだからだ。「頭の回転が速い」とか「知性的」というのは、こうした地道なトレーニングの積み重ねに負うところが大きいのだろう。通勤、通学時の1冊としてもおすすめである。(棚上 勉)
Amazone商品説明より抜粋
本書の目的
「良い批判/質問ができるようになること」
本書では、「議論を読む」と「論証*2する」ということを訓練します。これらを実践し自分の力とすることで「良い批判/質問ができるようになること」を目指すものです。これができるようになると、議論を発展させられるようになります。ある主張の論証を強固にすることができます。いわゆる理論武装ができるようになります。
批判ができるとは
「議論を捉え、論証部に対して反論ができること」
批判ができるためには、まず議論を捉える必要があります。この議論を捉えることは難しいですが、本書では議論を捉えるための道具を提案してくれています。それは下記の3つです。
1. 接続関係図
2. 推測/演繹の構造図
3. 論証図
各図の例を本書の問に対する解答にて示します。
1. 接続関係図
問37 次の文章における主張提示文*6をすべて取り出せ。
①未開社会では人々は狩猟で獲れた鳥獣や魚を平等に分け合う。②ここでは、金持ちほどたくさんの獲物を手に入れるといったことはない。③こういう社会は今日でもアマゾンの奥地のインディオの社会のように、地球上の一部地域に存在しており、時折、テレビのドキュメンタリー番組などで紹介され、「ケンカもなく、すべてを平等に分け合っています」などというナレーションが入る。しかし、④実は未開社会でも、ただでは平等な分け前にあずかることはできない。⑤平等な分け前にあずかることができるのは、狩における平等な働きが前提になっているからである。つまり、⑥未開社会では、直接的な労働サービス(狩り)の提供が、獲物の分配手段として利用されているのである。問37の解答 ①、④
設問は本書の問37より引用
問題文の出典 岩田規久男 『経済学を学ぶ』 (ちくま新書)
上記問の接続関係図を下記に示します。主張提示文①、④において主張の方向が転換していること、②③⑤⑥がそれぞれ解説と根拠となっていることが判ると思います。
2. 推測/演繹の構造図
問74 次の文章に示される推測において証拠、補助前提、仮説をそれぞれ挙げよ。
バスが通るにしては狭い道路に面して、今どき珍しい板壁の家があり、壁に立て掛けられた洗濯機には、無造作に家の外にある。洗濯機には張り紙があって、そこに書かれた文字を読むことが可能だ。
「使っています」
わざわざ「使っています」などと断わり書きをしてある洗濯機を、私はかつて見たことがなかった。めったにあることじゃなかったので、いいものを見せてもらった気がしたが、それにしたって、この張り紙にはどんな意味が込められているのだろう。私は丹念に洗濯機を観察した。私が知ることが出来るのは、「使っているらしい」ということだが、べつにいま洗濯中ということでもないらしい。電源コードは家の中に延びているが、洗濯機のスイッチは切れている。ところどころサビつき、泥がはねて側面は汚れている。表面のプリントは色あせ、ずいぶん以前のモデルらしいことがわかる。それで私はようやく気が付いたのだ。「使っています」とあえて書かなければ、ゴミと間違えられる恐れがあるのだ。
しかもそう明記しなければ、ゴミだと解釈して持ち去ろうとするやつがいるのだろう。それは一度や二度ではなかったはずだ。持ち主は、「使っています」と張り紙をせずにはいられなかった。問74の解答
証拠:外に置かれた洗濯機に「使っています」という張り紙がしてある。
補助前提:洗濯機の使用者は、持っていかれないように張り紙をした。
仮説:この洗濯機はゴミと間違えられそうなくらい汚れていて旧式である。
設問は本書の問74より引用
問題文の出典 宮沢章夫 『牛への道』 (新潮文庫)
上記問の推測の構造図を下記に示します。図は単純ではありますが、証拠と補助前提を明確にし、仮説の導出を図示できます。なお、演繹の場合は、推測とは逆に仮説と補助前提から証拠を導きます。
3. 論証図
論証図はABCを用いて利用方法を示します。これを用いて解答を示します。論証図によって、何を根拠に結論を導いているかを図示できます。
問52 次の論証の論証図を作成せよ。
(1) ①その変なこどもが現われたとき、風がどうと吹いて来た。だから、②そのこどもは風の又三郎なのだ。だったら、③去って行くときもやっぱり風が強く吹くだろう。(2) ①山椒の粉を魚のいるあたりにまくと、いつもはその毒で魚が浮いてくる。だけど、②その日佐太郎が山椒の粉を川にまいてよほどたっても、魚はさっぱり浮いてこなかった。ということは、③そのときそこには魚はいなかったのだ。
(3) ①三郎はもうこの学校には戻ってこないだろう。なぜって、②お父さんの仕事のせいで転校していったのだから。それに、③やっぱり三郎は風の又三郎だったのだから。
問52の解答
設問は本書の問52より引用
批判のまとめ
本書ではこれら3つの図を描く訓練をすることができます。そして、これらの道具を使い議論を捉え、論証部の不明点や矛盾点を検討します。その不明点などを質問文として提起することが批判になります。
おわりに
本書を通して、改めて議論とはどのようなものか理解することができました。そして、議論を進めるために必要なことが何かも解りました。常に図示する必要は無いですが、接続関係図、推測/演繹の構造図、論証図を示すことで適切な批判ができるようになります。しかし、一朝一夕で描けるようにはならず、私は今後も訓練が必要です。そこで、新版があるということので今度はこちらに手を出してみたいと思います。