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なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える 【書籍レビュー】


はじめに

私は大人になったら勉強はしなくなり、仕事をするものだと中学生くらいのときに思っていました。しかし、大学生あたりから大人になったら先生がいてみんなで話しを聴く学校的な勉強はしなくなるけど、自分で考えて新しいことを学んでいく勉強は生涯行っていくものなのだろうなぁと思い始めました。その勉強は必要に迫られたり、自分が興味をもったりと動機はいろいろです。学ぶことで自分が観測できる世界が広がり、つながる人が増え、それは豊かな人生につながると漠然と思っていました。

そんな中本書では、「なぜヒトは学ぶのか」をタイトルの通り深く掘り下げてくれています。生物学的にヒトの学習行動を考えられる本書は刺激的です。本書で面白いと感じた部分をピックアップします。

教育とは決して他人よりもよい成績をとろうと競いあうためではなく、また自分自身の楽しみを追求するためだけでもなく、むしろ他の人たちと知識を通じてつながりあうためにあった。その意味でヒトは進化的に、生物学的に、教育で生きる動物なのです。

受験をはじめ各テストは他者と比較されるため、どうしても競争的な見方をしてしまうのが学校での生活です。しかし、教育とは本来他の人たちとつながるコミュニケーション手段の一つです。最近、勉強会に参加するようになってそれを強く感じることができたので、言っている意味がよくわかりました。講師とのQ&Aによるコミュニケーションなどとても面白い時間です。子供のときのテストに向けた勉強もそれはそれで大きな価値があると思っています。どうしてもコミュニケーションが生まれにくい構造ではありますが、そこは親や周囲がうまくフォローできたりすると良いのかなぁと。

教育の進化学

生の三欲は「食欲」「性欲」「学習欲」

ヒトという動物は生の三欲をもって生きているということは意識しておきたいと思います。ヒトが行動するとき、これらの欲望に動かされている可能性が高く、相手の行動理由を理解するためのヒントになるはずです。なお、「睡眠欲」「排泄欲」は何かを取り込んで自分のものにしたいという性質のものではないので、生の三欲ではないと主張されています。

教育の定義

「すでに知識や技能を持つ個体が、目の前にその知識や技能を持たない学習者がいるときに特別に行う利他的な行動によって、その学習者に学習が生じること」*1

ナチュラル・ペダゴジー(自然の教育)

大人と子供の自然なやりとりの中で生じる「教育」の機能を、ナチュラル・ペダゴジー(自然の教育)と呼びます。
「ヒトは教育的動物(Homo educans)である」

言葉を話す以前の2歳未満くらいの赤ちゃんの時点で、ヒトは学ぶ行動を行っています。

教育の遺伝学

「いかなる行動の個人差も、遺伝だけからでも環境だけらでもなく、遺伝と環境の両方の影響によって作られている」

何かの結果に対して、それは環境要因なのか、遺伝要因なのかと片方に結論を求めることをしてはいけない、常に両方が影響しているというメッセージです。加えて、非共有環境(他者と共有しない個人が経験する環境)は無視できないほどに大きな影響を与えており、自身の努力で結果を掴み取ることはできるかもしれないし、できないかもしれません。

おわりに

教育を進化学、遺伝学、そして脳科学の観点で本書は論じてくれています。脳科学部分は私はうまく咀嚼しきれなかったのでレビューに記載できていません*2。ヒトの本質にデータを用いて迫ってくれており、勉強に興味がある方は是非一読をオススメします。わかりやすい言葉で難しいことを解説されており、よくよく考えるとこれは凄すぎる書籍なのではないかと思えます。あまりに情報量の多い書籍で、とっちらかったレビューになってしまいました。


*1:1992年 カロ、ハウザー

*2:あと書くのに疲れた。