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【光学】輝度

はじめに

光の明るさを測る指標として輝度があります。これは、例えばスマートフォンのパネル(LCD)の明るさなどの計測に利用されます。
この輝度がどのように定義されるか、解説します。

全体像

はじめに輝度の定義までに必要な単位や概念などの関係を図示します左から順に説明していきます。
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光の放射エネルギー

そもそも光の正体は電磁波です。そして電磁波は電場と磁場が持つエネルギーを運んでいると考えることができます。このエネルギーが光の放射エネルギーです。
イメージとしては、光は波のように伝搬し、その波にはエネルギーが伴っている、くらいでしょうか。

放射束[W]

ある面を時間あたりに通過する放射エネルギーを表す物理量
SI単位はワット(記号: W)が用いられる。
放射源を囲う面を通り抜ける全放射束は放射源の仕事率(power)に等しい。
放射束 - Wikipedia

光は放射エネルギーの一種なので、ある面を時間あたりに通過する光(放射エネルギー)の量を放射束として定義できます。
これで、光の大きさを定量的に表せることになります。しかし、この放射束が大きいことと、人間の眼にとって明るいこととは無関係です。つまり放射束は人間にとっての明るさを表現する単位ではありません。光の放射エネルギーの大きさを表し、単位はWです。

視感度

光に対する人間の眼の感度を定量化したものを視感度と言います。CIE(国際照明委員会)が約100年前(1924年)に標準比視感度V[λ]を定めました。これにより可視光の波長ごとの明るさの感じ方を定量化しました。555nmの波長を最大値にとり、そこから相対的な明るさ、比が規定されています。それを図示したものが下図です。

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標準比視感度

光の測定と単位についてより

なぜ横軸の波長は380nm~780nmなのか?

光は波の性質があるため、光は波長(波の周期の長さ)をもちます。赤い光は波長が長く、青い光は波長が短いです。そして、人間の眼は380nm~780nmの波長までしか感じることができません*1。よって、上記の標準比視感度では人間が感じられる380nm~780nmの波長を横軸にグラフが作られています。波長555nmが最大値1.0をとり、それ以外はなだらかに下がっていきます。つまり人間は同じ放射エネルギー量の光であっても、緑っぽい色(波長)を最も明るいと感じ、両端の波長の色は暗いと感じます。

光束[lm]

放射束に人間の眼の光に対する感度を考慮したものを光束と言います。単位はlm(ルーメン)です。
説明がややこしいのですが、まず結論となる光束の数式(放射束に人間の眼の光に対する感度を考慮したもの)を示し、次に登場する各文字の説明をします。数式には積分が出てきますが、これは可視光領域の380nm~780nmそれぞれで感度を考慮する計算をしてそれを全部まとめる(積み上げて計算する)というイメージです。

光束の数式

\displaystyle{Φ_v[lm]=K_m\int^{780}_{380} Φ_e[λ]*V[λ]dλ}

文字 要素
\displaystyle{K_m} 最大視感度*2
\displaystyle{Φ_e} 放射束
\displaystyle{V} 標準比視感度
\displaystyle{Φ_v} 光束
\displaystyle{K_m} : 最大視感度

\displaystyle{K_m=683[lm/W]}
標準比視感度V[λ]が最大値1.0となる波長(555nm)*3での視感度です。683[lm/W]と規定されます*4。この定数を掛けることで、波長555nmの単色光に対する光束(人間の眼の光に対する感度を考慮した値)を計算することができます。

\displaystyle{Φ_e} : 放射束

これは先述していますが、ある面を時間あたりに通過する放射エネルギーを表す物理量です。補足するならば、放射束は各波長ごとに考えることができます。例えば、蛍光灯の放射束を計測したら、波長555nmの放射束、波長780nmの放射束の値は異なります。そして、光束を計算するためには可視光領域(380nm~780nm)の全ての放射束を計算に入れる必要があります。そのため、数式に積分があります。

\displaystyle{V} : 標準比視感度

視感度の項目で記載しました。視感度の比を最大値555nmをもとに割り当てたものになります。

\displaystyle{Φ_v} : 光束

ここまでで右辺の要素の説明が完了しました。それらを計算した結果が光束の値となります。

\displaystyle{Φ_v[lm]=K_m\int^{780}_{380} Φ_e[λ]*V[λ]dλ}
各波長(380〜780nm)ごとに放射束と標準比視感度をかけたものを積分し、最大視感度をかけると光束になります。これによって、放射束という物理量から人間の感じ方、心理物理量に変換できたことになります。

光度[lm/sr=cd]

光源から放射される光の単位立体角辺りの光束量が光度です。単位はcd(カンデラ)またはlm/sr(ルーメン/ステラジアン)です。
光源の光は電球のように全方向に進むものもあれば、LEDのようにある方向にのみ光るものもあります。後者のようなものの明るさ、光に向きをもつ光源に対して光度が使われます。ある方向にのみ着目するため、光束を単位立体角で割ることになります。
なお、立体角については下記の動画がわかりやすいです。
【大学数学】立体角(3次元における角度)【解析学】 - YouTube

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光度のイメージ図

7.光度とは 『イメージで分かる』光源の明るさ |大塚電子より

輝度[cd/m^2]

光源から放射される光の単位面積辺りの光度が輝度です。単位はcd/m^2(カンデラ/平方メートル)またはlm/sr(ルーメン/ステラジアン)です。
ようやく輝度の定義ができました。光度は点光源からある面への明るさで、輝度は面光源からある点への明るさというイメージになります。そのため、面であるスマホのディスプレイの明るさ評価などに用いられる指標になります。

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輝度のイメージ図

4.輝度とは 『イメージで分かる』光源の明るさ |大塚電子より

おわりに

輝度の定義に必要な関連するエネルギーや単位を1つずつ追っていきました。電磁波の掘り下げは別途したいです。光束の考え方が解るのが山のように思います。光度、輝度の単位面積、単位立体角については微分のイメージがあると理解が進みます。今後、本記事を起点に光のいろいろについて勉強、記事にしていきたいと思います。

*1:波長が380nmより短い光は紫外線、780nmより長い光は赤外線と呼ばれ、人間には見えません。

*2:最大視感効果度とも呼ぶ

*3:555nmは明るい場所で人間が最も明るいと感じる波長

*4:どのような理屈で683[lm/W]と規定したかは理解しきれていません。。